器械体操部 〜OB編〜

Written by 後藤輝鋭


「ぬぅぅ……、暑い……」
 6時間の授業を終え、掃除も帰りのホームルームも終わった放課後。多くの生徒が荷物を持って教室を出ていく中、順輔は教室の自分の机に座ったまま、暑そうにワイシャツの胸元をパタパタと動かした。
「順輔、じゃあまた明日な」
「おう、……今からクラブか?」
「あぁ、……きついぜ。死ぬぞ」
「せいぜい死んでこい。またな」
 順輔の前の席の友人が、ホントに暑くてキツそうな顔で教室を出ていく。7月上旬のこの日。梅雨ももうすぐ明けようかという晴れの日。昨日までの雨が止んだかわりに、太陽がピーカン照り付けるうえに、朝から蒸し暑くって蒸し暑くってしょうがない。これが、日本の夏なのか…。
「からだがベトベトだな……。仕方ないけど……」
 6時間目の授業はよりによって体育。このクソ蒸し暑い中、汗ダラダラになりながらソフトボールをやった。まぁ、やってる最中は楽しいからいいのだが、おかげで体操服は汗だくでべっとり。順輔はもう帰るだけだからいいが、体育系のクラブに入ってるヤツは、これからまた体操服をきてクラブをしなければならないのだ。ユニフォームのあるクラブならまだしも、そうじゃないところは、あのベタベタのままの体操服に着替える。その時の感覚は想像を絶する。
「……帰宅部は、こういう時楽だな……」
 中学に入ってから、結局何のクラブにも入らなかった順輔。器械体操で見せたその能力を余らせてもったいない、とは言われたが、小学校の器械体操部でなんか精一杯やれたから、まぁいいかなんて思ってしまっている。しかし、もったいない。
「なぁ、長原。ちょっと涼みに行かないか?」
 順輔がそろそろ帰ろうと席を立ったとき、同じクラスの友人から声をかけられる。
「涼みに? ……理科室か?」
「正解」
 友人はそう答えて笑う。この友人、理科部の部長をやっていて、順輔とも仲が良い。理科部はいろんな実験道具や薬品を使って、常日頃から面白い事をやっているので、順輔もけっこう入り浸っている。
「今日って、活動日だったっけか?」
「いんや。違うけど、部長権限で理科室は使えるからよ。30分くらい涼んで帰ればいいだろ?」
「……そうだな。それじゃあ行くか」
 順輔と友人ふたりで、隣の校舎にある理科室へと向かう。理科室にはなぜだか知らないがエアコンが設置されていて、この理科部の存在とともに生徒の隠れた憩いの場となっているのだ。
「さて、今日はなにして遊んでおくかな」
「風船に水素突っ込んだ爆弾とか、おもしろいからまたやりたいけどなぁ」
「あれ、けっこう危ないし、準備に大変なんだよな」
「じゃあ、また今度だな」
 理科室のエアコンで涼むので、名目上なにかやっておかなければならないのだ。なにもせずに、ただエアコンで涼んでいるだけと言うわけにはいかない。
「あ、こないだの実験のシートをファイルしてなかったから、ちょっと手伝ってくれるか?」
「あぁ、いいぞ」
 ということで、順輔と友人のふたりでクラブでやった実験結果の紙をファイリングしていく。こう見ると、順輔も理科部に入っておけば良いものを、なぜだか入っていない。まぁ、どこかに入ってしまうと、いろいろと縛りを受けることがあるから、入っていないのだろうが…。
 15分ほどすれば、作業もほとんど終わってしまう。また、やる事がなくなってしまうが、まぁ先生になにか言われても「実験シートをファイルしてました」って言えばいいから、友人と雑談をしてしばらく過ごす。
「あれー? 順輔くん」
 しばらくして、聞き覚えのある声が耳に届く。その声をした方に順輔が振り向くと、その声の主、芳香が理科室の入り口に立って不思議そうな顔をしていた。
「よぉ、芳香。どうしたんだ?」
「……それって、こっちの台詞なんだけどなぁ…。順輔くん…」
 芳香がそう言いながら理科室に入ってくる。実は、芳香も理科部所属。入った理由は、「なんとなくおもしろそうだったから」だそうだ。確かにこのクラブ、女子生徒もけっこういるし、けっこう面白い事もやるので隠れた人気があるのだ。
「どうしたの? こんなところで」
「ん、いや。ただ単に暑かったから、涼んでるだけ」
「……ふーん。いわゆる冷やかし?」
「それはギャグか? 芳香」
「……別にそういう訳じゃあないんだけど……」
 芳香がちょっと困った顔をしながら言う。
「ところで、芳香はなにしに来たんだ? 今日、活動日じゃないだろ?」
「うん。吉井先生にうちの班のノート持ってきて、そしたら理科室電気ついてたから」
 そう言いながら、芳香は順輔の前に座った。
「あれ? 吉井先生いたか?」
 順輔の友人が芳香に聞く。
「いえ、いませんでしたよ。だから、机の上にノート置いておきましたけど」
「聞いときたいことがあったんだけど、…まぁいいや」
 友人が、むーと小さくうなった。
「わたし、今から帰るつもりだけど、順輔くんはどうするの?」
「……そうだな、今日は一緒に帰るか」
「うん、わかった。じゃあ、わたし教室に荷物置いてあるから、順輔くん玄関のところで待っててくれる?」
「あぁ、いいぞ」
「じゃあ、前田先輩、お先に失礼しますね」
 芳香が順輔の友人にぺこりとお辞儀をすると、理科室を出て校舎を駆けて行った。
「そんじゃまぁ、そういうわけで。オレ帰るわ」
「……いいなぁ、オマエは。あんなにかわいい彼女がいて」
「まぁ、……な。オマエも早く作ればいいだろ」
「そう簡単に出来たら、苦労しねえよ」
「そりゃ、そうか」
 意中の人はいても、そう簡単に告白なんか出来るわけもなく、さらに言えば告白したって成功する可能性だってあるかどうかわからない。そういう年頃の中にあって、長い間らぶらぶ続けている順輔と芳香は、幸せなヤツなのだ。
「んじゃな」
 うらめしそうな顔をしている友人に手を振り、順輔は理科室をあとにした。


 夕方近くになっても暑い夏の日差しはギンギンと照りつける。半袖のワイシャツから出した腕が焼け始めているような感覚。もうちょっと日が傾いてくれれば、だいぶ楽なんだけどなぁと思う。
 ちょっとして、1年生の玄関から芳香が駆けて出てくる。
「お待たせ、順輔くん」
「おし、じゃあ帰るぞ」
 学校を出て、ふたりで歩く。芳香が中学に入ってから、時々こうしてふたりで登下校をしている。小学校の時には出来なかったことだ。
「そういえば、芳香。息が切れてるけど、走ったのか?」
「うん、……順輔くんを待たせたら悪いと思って」
 芳香がにこっと笑う。額にうっすらと汗をかいているが、これはたぶん夏の暑さのせいじゃなくて走ったせいだろうなーと思う。
「どうでもいいけど、その夏服って涼しいのか?」
「制服?」
「あぁ」
 芳香が来ている、この中学校の制服。セーラーの部分が紺で、あとは白のセーラー服は、小学生の女の子からけっこう人気があるらしい。ちなみに、冬は紺色の普通のセーラー服。このセーラー服にあこがれる女の子は、けっこう多い。
「思ってたよりも涼しいし、着るのも楽だよ。けっこう生地も薄いしね」
 そう言いながら、芳香はなにかはしゃぐようにする。スカートも膝がちょっと見えるくらいまで上げているのも、中学生になってオシャレしたいからかもしれない。前に湯川先生が言ってたけど、芳香も年頃になって、かわいらしさが確かに増したよな、と順輔は思う。
「順輔くんのズボンって、黒いから暑くない?」
「あー、普段はいてる分にはいいんだけどな。朝礼とかがあって直射日光をずーっと浴びてると、最悪」
 夏のズボンは結構薄手の生地を使っているので意外と涼しいのだが、黒と言う色が、非常に暑苦しいのだ。なんというか、ずっと太陽を浴びていると、アイロンを当てられている気分になる。
「ふぅむ……」
 芳香の制服をチラと見て、順輔は考える。今まで在学中に他の女子生徒の制服姿は見てきたけど、芳香が着てるとやっぱりなにか違う感じがする。脱がしてみたいなぁなどという、下心も沸沸と沸いてきた。
「……どうかした? 順輔くん」
「あぁぁ、いやいや。なんでもない」
 頭の中を悟られそうになって、あわてて現実世界に戻る。
「あ、そうそう。言い忘れてたけど、子供会の体操教室が公民館であるんだけどね、順輔くん手伝いに行く?」
「あぁ、行くぞ。……でも、今から行ってもほとんど終わりに近いよなぁ……」
「そうだね。……いつも、土曜日に手伝いに行ってるからね」
 自分の母校となった小学校の器械体操部の手伝いだけじゃなく、町内の子供会の体操教室にも、ふたりは手伝いに出ている。一応指導の先生はいるけれど、少しでも体操をやっていた人がいると助かると言うことで、ふたりで時々手伝っているのだ。
「でも、とりあえず顔だけ出してみる?」
「そうだな。まぁ、片づけくらいは手伝えるだろ?」
 そう話しながら、公民館へと向かう。公民館は家のけっこう近くにあるので、帰り道とほとんど変わらない。
「そういえば、湯川先生の新婚生活ってどうなったんだ?」
「結婚して名前が変わったから、今は荒木先生だよ」
 器械体操部の顧問で、まもなく三十路という大きな山場を迎えていた湯川先生は、前回のお話の通りこの春にようやく結婚した。そこに至るまでは、まぁいろいろとあったらしいが。
「旦那さんが3つ年下の会社員らしいけど、結構うまく行ってるらしいよ」
「へー。意外といえば意外だが……」
「そんなこと言ったら、先生に悪いよ」
 とはいいつつも、芳香の顔もなにか楽しげ。
「年下だから、先生がけっこう引っ張ってるんだろうな」
「だと思うよ。結婚生活って、いいよねー」
 そう言った芳香が、順輔の顔を見る。順輔も芳香の顔を見て、目線が合う。
「……んまぁ、今結婚するのは無理だから、もうしばらく待ってくれい」
「しばらくって、どれくらい?」
「……少なくとも、オレが高校卒業するまで……」
「あと3年かぁ……。えへへ、待ってるよ」
 芳香の嬉しそうな顔を見て、順輔も赤面する。ふたりとも、このまま一緒にいたいと思ってるし、それがふたりの目標なのだ。
「そういや、健と綾乃はどうしてるか?」
「健くんは隣のクラスだけど、けっこう元気にしてるからいい感じなんじゃないかなぁ?」
「器械体操部に見に行っても、健はあんまり来ないからなぁ…」
 そう話しながら、住宅街の道を曲がる。
「あれぇ? 健くんと綾乃ちゃん?」
 前の方からその話のふたりが歩いてくるのが見えた。噂をすれば影、とはこういう事か。
「……あ、どうも。長原先輩」
「わ、……芳香ちゃん、……長原先輩も」
 健も綾乃も気が付いて、びっくりした感じで立ち止まる。健は中学校の制服、綾乃は私服だけどランドセルを背負ってるあたり、ふたりとも学校帰りなのだろう。
「よう、これからどこ行くんだ?」
「あ、……ちょ、ちょっと」
 なにか言い辛そうな感じ。ははーんと、順輔はこれからのことを察知する。きっと、ふたりが一緒にいるのも待ち合わせたからなんじゃないかと思う。
「今日は、クラブなしか?」
「あ、……はい。今日は、先生が職員会議って、練習なしです」
 ちょっとおとなしめの綾乃が言う。このふたり、おとなしめのコンビなのに、アレはけっこうすごいらしい。いや、らしいというか、順輔も芳香も見たことあるからなぁ……。
「まぁ、仲良くやれよ。じゃあな」
「じゃあ、また明日ね、健くん。綾乃ちゃんも、またね」
「は、ハイ……。さよーなら……」
 ふたりっきりを邪魔したら悪いと思って、ふたりともさっさと離れる。そういえば、自分たちもふたりっきりだったなぁと思い出す。
「あいつら、今からするんじゃないか?」
「うん、私もそう思うよ」
「……どこでするんだろ?」
 順輔が腕組みして考える。練習なしと言うことは、体育館は閉まってるから、定番の体育倉庫は無理だろうし……。
「たぶん、綾乃ちゃんの家だと思うよ。……綾乃ちゃんのお母さん仕事してるし、お兄さんも高校生だからまだ帰ってきてないし」
「ふぅむ。……家でするってのも、ある種冒険だよなぁ」
 いつ家族が帰ってくるかわからない時にするのは、ハラハラドキドキものである。帰ってこないって言う保証があるのならば、ゆっくり落ちついて出来るけど。
「ちなみに聞くけど、芳香、いま家は?」
「今日はお母さんがいるよ。…ちなみに、順輔くんは?」
「ウチも同じ。まぁ、オレらは、今日は家ではちょっと無理だな」
 場所を捜さないとなぁと、順輔はこれからの予定とともに考えた。
 住宅街の道をもう100mほどまっすぐ行けば母校の小学校の正門と言うところのT字路を右へ曲がり、ちょっと歩くと少し大きな公園がある。その隣に公民館がある。2階建ての、そこそこの規模の公民館。昔から、ここでよく遊んだりもした。
「こんにちは」
「こんにちはー」
 受付へと顔を出すと、老眼鏡を付けた白髪のおじさんがふたりの顔を見る。
「おぉ、いらっしゃい。体操教室かい?」
「はい、そうです」
「いつものところでやってるけど、もうすぐ終わりの時間じゃないかな?」
 事務室に貼ってある予定表の紙を見ながら、おじさんがつぶやく。
「まぁ、このあと使う予定も入ってないから、遊んで行っていいよ」
「そうですか? じゃあ、そうします」
 順輔がそう言って、2階へと上がる。2階のいちばん奥の部屋。カーペット敷きのプレイルームと書かれた部屋が、いつも体操教室の場所になっている。
「こんにちは、…どうも」
「お、いらっしゃい」
 その部屋に入ると、10人くらいの幼稚園の子供たちとともに、ジャージを着た若い男性が立っていた。
「土山さん、もう終わりですか?」
「うん、ちょっと遅かったね。もう終わりの時間になるよ」
 土山さんと言う、まだ20台半ばの男性。市の職員なのだが、普段は幼稚園や保育園を回って、体操の指導なんかをしている。そして、公民館などでも町内の体操教室の指導を行う傍ら、また別の体操クラブでも指導をするという忙しい人。
「順輔お兄ちゃん、おそいよー!」
「わー、芳香お姉ちゃんだー。おそいおそいー!」
 ふたりに気が付いた子供が、すぐに群がってくる。土曜日に、ふたりして顔を出すことが多いので、みんなふたりになついているのだ。
「ごめんねー、遅くなって。次は、ちゃんと最初から来るね」
 順輔も芳香もにこやかな顔をして、子供たちとじゃれあう。ふたりともけっこう子供が好きなので、こうしてよく一緒にじゃれたりする。こうしてみると、数ヶ月前まで小学生だった芳香が、ものすごくお姉さんに見えるから不思議なものだ。ここでひとつ、また芳香の魅力を発見する。
「よーしよし、じゃあ、終わりにするぞ〜みんな」
 土山さんがそう言うと、みんな揃って片付けをする。床に敷いてあったマットや跳び箱を、子供たちと一緒になって片付ける。その間に、子供たちの親が公民館までやって来る。
「みっくん、またなー」
「うん。ばいばいお兄ちゃん!」
 お母さんに手を連れられて、ひとりひとり帰っていく。みんな、楽しそうな顔をしているから、こっちも自然と顔がほころぶ。
「芳香お姉ちゃん、土曜日来るのー?」
「うん、来るよ。土曜日は、ちゃんと最初から来るからね」
「順輔お兄ちゃんはー?」
「オレも来るぞ。また、逆立ちの練習しような、まいちゃん」
「うん! じゃあねー、ばいばーい」
 最後まで残ってた女の子を送り出すと、部屋に順輔と芳香、そして土山さんだけが残った。
「オレ、これから市役所に戻ってまた体操部の練習見に行くけど、ふたりともまだここで遊ぶんだろ?」
「そうですね、……そのつもりですけど」
「じゃあ、受付のおじさんにはそう言っとくから、最後に鍵だけよろしくな。じゃあ、また土曜日」
 土山さんはそう言って、ジャージの上着を着て荷物を持つと、下へと降りて行った。
「お疲れ様でーす」
「おつかれさまです」
 ふたたび、ふたりっきりの時間。いつもの体操教室のあとにふたりで残ると、いっしょに軽く器械体操の真似事をしたり、物入れに入ってるゲーム盤やトランプで遊ぶことが多い。
「順輔くん、今日は何しようか?」
 静かになった部屋にふたり。芳香が物入れの棚を開けて言う。
「なぁ、芳香」
「なに?」
「……今日は、大丈夫か?」
「え? ……大丈夫って?」
 きょとんとした顔で、芳香が聞く。
「いや、そのだな……」
 順輔も、ぽりぽりと頭をかいて、何か言いづらそうな顔をする。芳香はその顔を見て、しばらく不思議そうな顔をしていたが、やがて頬を薄く染めて口を開く。
「う、……うん、……大丈夫だけど、……ここでするの?」
「……いやか?」
「いやじゃないけど、……大丈夫かな?」
 外へと通じる扉の方を見ながら、芳香が言う。小学生の頃は、順輔と体育館の倉庫で何度となくしていたが、普段慣れない場所でするとなると、やっぱりちょっと心配なのだ。小学校の体育倉庫でしていたときも、ある種ドキドキものだったことに変わりはないが。
「今日使ってるのはオレらだけだし、……受付のおじさんも滅多に上がってこないから大丈夫だと思うけど」
「うん、……でも、……あんまり遅くならないようにしようね……」
「あぁ」
 順輔がそう言うと、芳香に唇を重ねながらゆっくりと押し倒す。
「んっ……、んふぅ……」
 芳香と舌を絡めて、互いの唾液を交換し合う。
「んふ……、んんんっ」
 ふたりの唾液が混ざり合う音が響き、それとともにふたりの気持ちも少しずつ高ぶり始める。芳香のほほが薄く染まり始め、すこし熱を帯びてくる。
「ぷは、……はぁ、……あふん」
 一旦唇を離して息をつくと、順輔は再びキスを続けながら、芳香の胸を制服の上から優しく触る。薄手の制服からは、芳香のまだ発達途上の胸が感じ取れる。それでも、ちゃんとブラジャーはつけているようだった。
「芳香、ブラ……、取るよ」
 順輔の言葉に、芳香が無言で頷く。そして、背中を少し浮かせて順輔の手を入れさせる。芳香をカーペット敷きの床に寝かしたまま、ブラジャーのホックを外す。ぷちんと言う小さな音が、かすかに聞こえた。
「……じゅ、順輔くん。ちょっと待って、誰か上がってくるよ……」
 順輔が胸を直に触ろうとした時、芳香が小さく声を上げる。順輔の動きがその状態でぴたっと止まり、全神経を耳に集中させる。かすかに聞こえる、階段を上がる音。その音が、だんだん大きくなる。
「やば、おじさんが上がってくる」
 耳のいい芳香だからこそ気付いたのだろう。夢中になりかけていた順輔では、気付かなかったかもしれない。
 ふたりが離れて、急いで身だしなみを直す。順輔の方は何も脱いでないのでそのままだったが、芳香はブラを外されているので急いでそれを直そうと背中に手を回す。ところが、焦れば焦るほどうまく行かない。なかなかはまらないうちに、足音は部屋の前まで聞こえ、ついにノックの音が部屋に響いた。
「ちょっと失礼〜」
 受付にいたおじさんが部屋に顔を出す。そのとき順輔は、一応なにかをやろうとしていたフリをしようと、物入れのいちばん上に置いてあったゲーム盤、人生ゲームの箱を出そうとしていた。
「ふたりっきりで遊んでるとこ悪いね」
「は、はい? ……なんですか?」
 心臓をバクバクと言わせながら、順輔が平静を装って答える。ブラが背中側で外れっぱなしの芳香は、妙な違和感を感じつつも共に平静を装う。
「一応、18時で閉めるから、それまでに下に降りて来てね」
「あ、はい、……わかりました」
「それじゃまぁ、ごゆっくり」
 おじさんが扉を閉めて、再び足音が遠のいていく。順輔は、カモフラージュのために手に持っていた人生ゲームの箱を傍らに置くと、大きく息をついた。
「はー……。びっくりした」
「私の方がびっくりしたよぉ……」
 顔を真っ赤に染め上げて、胸を抑えている芳香。ブラジャーがこれ以上ずれないようにするためだろうが、その胸に当てた手には、どくどくと言うこれ以上にないくらいの心臓の鼓動が響いていた。
「ふーっ……。……どうする、芳香」
「……ここまで来てしないのも、ちょっとわたしは困っちゃうよ……」
 芳香はそう言いながら自分の胸元をチラと見た。
「……じゃあ芳香、もう1回最初っからな」
「……うん」
 ふたたびふたりが唇を重ねて、芳香はからだを寝かせる。唇を重ねながら、順輔の手はすそから制服の中へ入り込み、ホックが外されっぱなしだったブラジャーをずらして、芳香の胸へ直接触れた。
「んんっ……」
 まだ小さな胸の膨らみに手が触れたとき、芳香が小さく声を漏らす。1年前から比べれば、ずいぶん成長した胸なのだが、それでもまだまだ発達途上。でも、独特のやわらかさと感度は、今でも充分過ぎるくらいのものを持っている。
「ふぅん……、んふ……」
 ふたりの舌が絡み合い、唾液が交じり合う音が響く。順輔の手が芳香の胸の形を変え、快感が通りぬけていく。それとともに、芳香から熱いものもこぼれ出す。
「じゅ、順輔くん……」
 芳香がとろんとした目で、順輔を見る。息は荒くなり、しっとりと汗をかいている。
「なぁ、芳香……。全部脱がしていいか?」
「えっ……。全部?」
 芳香がちょっと驚いた顔をする。こんな所で全裸になるのはやっぱり恥ずかしいし、管理人のおじさんがいつ上がってくるかわからないので、ちょっと不安になる。
「大丈夫……、かな?」
 いままで体育倉庫でさんざんしてきたが、あの場でもばれないかドキドキしていた部分はあった。でも、それを何か楽しむ感じが、ふたりにはあった。
「おじさん、たぶん時間まで上がってこないから」
「でも、……もし見つかっちゃったら」
「オレも全部脱ぐから、……見つかった時はお相子だ」
「……うん、……じゃあいいよ」
 芳香がそう言うと、まず順輔が服を脱ぐ。半袖のワイシャツを脱いで、制服のズボンも脱ぐと、あとはトランクス一丁だけ。その姿で、今度は芳香を脱がせるために、いったん体を起こさせる。
「ふぅぅん……」
 芳香の肌を滑らせるように手を動かすと、小さな吐息が芳香から漏れた。ちょっと汗をかいた肌だったが、逆にそれが健康的に感じる。セーラー服の上着に手を入れて、そのまま上へと脱がす。はだけたブラジャーが姿を表し、それが落ちない様に受けとめた芳香の姿が、逆にものすごくそそる。
「芳香。腕、どけて」
 芳香の腕からブラジャーを抜き取り、成長途上の膨らみをあらわにする。先っぽは既にツンと起っていて、ほんのりとピンク色に染まっていた。
「ふ、……わぁ」
 順輔がそこへキスをする。敏感になった先っぽに刺激を与えられ、それが全身に流れていく。
「うん……。くふぅ……」
 場所柄大きな声を出せないので、小刻みに震えながら芳香が吐息をする。
「あっ……」
 刺激が収まったかと思い、つむっていた目をあけると、自分の腰からスカートがするっと脱がされていくのが見えた。芳香も年頃なので、スカートの下には体操服のハーフパンツをはいているから、いきなり着けているものが最後になると言うわけではないけれど、それでもスカートを脱がされるのは恥ずかしい。
「あ、……ふぅん」
 ハーフパンツの上から秘部を指で刺激される。ハーフパンツの生地の、ちょっとしたゴワゴワ感が、なにか新鮮な快感を与えてくれたように感じる。順輔はそこから手を腰へと動かし、芳香からハーフパンツをゆっくりと脱がした。
「はぅ、順輔くん……」
 芳香のスマートな脚からハーフパンツが脱がされ、後に残ったのは薄いピンクのパンツと白のソックスのみ。こんなところでこんな姿になっていると言うのが、ものすごくそそるし、ドキドキする。芳香のパンツの秘部は、既に濡れているのがわかるし、順輔のモノもトランクスにくっきりと形を作っている。ふたりとも、ある種こんな所ですることに興奮する属性を持っているのかもしれない。
「ふぁ……、はふん……」
 秘部をパンツの上から優しく触られて、芳香から自然と声が出る。その声も、大きな声がでないようにがまんした、切ない声。
「芳香、濡れてる?」
 順輔の問に、こくんとうなづく。パンツの生地を通して芳香の秘部に触れてみると、そこはしっとりしていて、もう既に濡れているのがわかった。
「あっ……、……くぅん」
 筋に添って手を動かすと、指先にこつんとあたる感触がする。それこそ、女の子の弱点のひとつ。順輔はそれを見つけると、なにか嬉しそうに指を動かして、攻めつづける。
「あん、……ひっ、うく……」
 順輔にされるがままのように、芳香がぴくぴくとからだを動かす。順輔のあやつり人形のようになった芳香は、さらに秘部を通してパンツを濡らしていき、やがて小さく音を立てはじめた。
「芳香、いいよな」
「うん……」
 もはや、芳香にそれを拒否する理由はない。順輔が最後に残ったパンツに手をかけて、するっとおろしていく。そこに見えたのは、少し濃くなってきた恥丘と、まだまだきれいな形をした筋。大人へと成長している芳香も、まだ子供の部分が十分に残っていた。
「はぁ……、はぁ……。……順輔くん」
 カーペット敷きの床に寝転がって、芳香が胸を上下させる。心臓は高く鼓動しつづけ、からだ中から汗をかき始める。こうしてはだかで寝転がっているだけでも、なにか興奮してしまう気がすると、芳香は思っていた。そうすると、靴下だけ履いている自分が、なぜかものすごくいやらしく、えっちな女の子に感じてしまう。
「……よ、芳香」
 順輔もこの光景に頭がクラクラとし始める。自分が言い出したこととはいえ、公民館のさっきまで子供たちと一緒にいた部屋に、靴下だけを着けた芳香が全裸で横たわっていることに、順輔もかなり興奮していた。
「芳香、……気持ちよくしてあげるからな」
 思考回路が吹っ飛んでしまいそうな順輔がそんな台詞を言い、芳香の両脚を持って左右に広げる。芳香はそれに抵抗するはずもなく、されるがまま恥ずかしい部分を順輔に見せつけた。
 脚を開くと、筋がふたつに分かれて、顔を出している芽や、蜜を流している口があらわになる。順輔はそれをさらに指で広げ、くちづけをした。
「ふぁ、……あはぁん」
 びくびくっと芳香の体が震え、上半身がきゅっと縮こまる。思わず出てしまう声を抑えるためか、両手の指が口に添えられて、その姿が余計にかわいらしく見えてしまう。
 順輔はさらに芳香を悦ばせようと、敏感になっている芽を中心に、舌で舐め繰り回した。
「んふっ……、ふわ、……あぁぅ」
 芳香が甘美の声を上げるたび、秘部からはとろとろと密が流れてくる。それが順輔の唾液と混じって、秘部だけでなくその下の穴までも濡らしていく。
「はぁん……、はぁん……」
 順輔のねっとりとした舌が芳香の芽を通るたびに、甘美の声があがる。
「芳香、気持ちいい?」
「う、……うん、……気持ちいい、気持ちいいよぉ」
 ぴくんぴくんとからだを脈動させながら、芳香が答える。自分によって気持ちよくなってくれていることに、順輔はものすごく悦びを感じてしまう。順輔は、さらに激しく芳香の秘部を攻め立てる。
「あ、あぁぅ……。あはぁぁん……」
 芽を唇でつまんで舌先でちろちろと舐めると、芳香はそれに見事に呼応して声を上げる。からだがぴくぴくと動き、気持ちよさそうな声を上げる。
「はぁん、いい、……いいよぉ、順輔くん……」
 その声を聞いて、順輔はさらに攻め続ける。とめどなく流れ続ける愛液と順輔の唾液のおかげで、秘部ももうぐっしょりとなっていた。
「はぁ、はぁ……、順輔くん」
 とろんとした目で、芳香が順輔の名を呼ぶ。秘部は、ひくひくと何かを求めるように小さく動いている。芳香自身は意識せずとも、からだはそれを待ち望んでいるようだった。
「芳香、……いいか?」
 生唾を飲み込んで、順輔が聞く。それに、芳香はこくんとうなづく。
「じゃあ、……入れるぞ」
「……うん、来て……」
 順輔がトランクスを脱ぎ、最大限まで大きくなったモノを露出させる。順輔もまだ成長途上の少年。はじめてしたころよりも、モノが大きく成長している。それでも、まだ年相応の若々しさのあるモノの姿だった。
 芳香がそれを迎え入れる体勢になり、順輔がその上に覆いかぶさる。
「いくぞ」
「うん……」
 モノを秘部に添えて、ゆっくりと挿入していく。
「はわ、……はぅぅぅ」
 きゅっと芳香のからだが縮こまり、息を吐くような声を上げる。ぬるぬるとした芳香の中へ、モノが根元まですっぽりと飲み込まれ、順輔も小さく息をつく。
「芳香、おまえ、……気持ちよすぎる」
「えへ、……へへ、ありがと」
 動かないでも、入れてるだけで官能がものすごく高ぶっていく。モノと中がぴったりとジャストフィットして、ぐにゅぐにゅとうごめく内壁がモノを刺激し続ける。
 初めてが早かったふたりにとって、ともに成長しながらえっちをし続けたので、モノも中もふたりに合うように成長してしまったのかもしれない。それだけ、抜群の相性でつながっている。
「もっと、……気持ちよくなっていいか?」
「うん、順輔くんが気持ちよくなれば、私もすごく気持ちよくなれるから」
 うっとりとした表情で芳香が言う。芳香も、入れているだけでものすごく気持ちいいのだ。
「あぁ、……ふはぁ」
 順輔が腰をゆっくりと引いてモノを引き抜き、再びゆっくりと入れる。そのたびに、芳香の口から甘美の声が漏れる。
 ほとんど全裸のふたりが、公民館の一室でこんなことをしている。傍から見ても、ものすごくそそる状況。その状況の主役のふたりは、くらくらとした頭の中、快楽の世界に没頭し続ける。
「あはぁ、……ひぁん」
「ふ、……くっ、……あっ」
 モノが芳香の中を出入りするたびに、えっちな音が響き、液がつながった場所からじわっ、じわっと漏れ出す。
「ふわぁ、……い、いい、いいよぉ、順輔くん」
「あ、あぁ、……オレも、……オレも最高だ、芳香……」
 順輔が芳香の頭を抱きしめ、腰を動かし続ける。芳香も、順輔の首に手を回し、駆け抜けるような快楽に浸り続ける。
「ふぅ、……ぅぅ」
「は……、あはぁん……」
 ふたりしかいない部屋に響く、えっちな音。水の混じるような音が結合部から発せられ、それがふたりの耳にもしっかりと届いていた。
「よ、芳香、……オレ、もう……」
「わ、わたしも、な、なんだか……。や、……へ、変になっちゃう……」
 ふたりの往復するリズムが同調し、互いの快楽を極限まで高めていく。局部になにか絞られるような感覚が集まり始め、自然と力が入っていく。
「あ、……わ、わたし、……だ、だめ。……や、あ、あ、……あ!」
 芳香がブリッジをするように腰を高く上げようとする。それに釣られて、順輔も腰を動かすスピードが速くなり、これ以上に無いくらいの快感がからだ中を駆ける。
「は、あ、……あぁっ!」
 芳香がからだを反り上げて、頭の中を真っ白にしていく。
「よ、芳香……」
 その姿を見て、順輔も果てかける。しかし。
「は、……あっ!」
 瞬間、我に返った順輔は、モノを芳香から引き抜いた。その瞬間、間一髪、芳香のからだへ白いものが勢いよく放射されていった。
「はぁ、はぁ……、……芳香」
「順輔くん……。えへへ、……忘れてたね」
 互いに荒い息をしながら笑う。やっている最中は夢中で、何もつけずに生でしている事をすっかり忘れていたのだ。普段は、親の寝室などで見つけたゴムを少しくすねたりするのだが。
「ごめん、芳香。……もうちょっとで中出しするとこだった」
「ううん、謝らなくてもいいよ。わたしも、そんなこと忘れちゃってたから」
 まだ頭の中は、いった余韻が残っていて、ちょっとぼんやりとした感じになっている。精液をかけられた芳香はそれを気にすることなく、うっとりとした表情で順輔を見つめていた。体中に飛び散った精液は、順輔の若さゆえかかなりの距離まで飛んでいる。ほとんどは恥丘やおなかの辺りに飛んでいるが、一部は胸を越えて首の辺りまで到達していて、その飛距離に順輔は少し頭をかいた。
「芳香、……ちょっと、そのままにしててくれ」
 順輔がかばんの中からポケットティッシュを取り出し、芳香のからだに飛び散った精液を拭いていく。そこまで気遣いしてくれる順輔をうれしく思いながら、芳香は見ていた。
「順輔くん、……ありがと」
「……いや、……オレも、ありがとな」
 ふたりが見つめあって、くすりと笑う。そして、ちゅっとキスをした。
「ふー……」
 芳香も起き上がって、ふたりして息をつく。しばらくそうしているうちに、気分も元に戻ってきて、汗も乾いてくる。
「……なんか、やばくないか。……これ」
「……うん、かも」
 終わってしまって頭が冷静に戻ると、こんなところで全裸になっていることにものすごい恥ずかしさを感じる。それに加えて、なにか非常にヤバイことをやっていたんじゃないかという気持ちが出てくる。
「……服着るぞ、服」
 ふたりが急いで制服を着る。やっている最中は、見つかってもどうにでもなると思っていたのに、いざ終わってしまうと、見つかるのはヤバイと感じて、ふたりしてあわてて服を着る。
「芳香、髪が乱れてる……」
 順輔がそういいながら、手ぐしで芳香の髪の毛を整える。最中に、けっこう激しいことをしたので、どうしても髪の毛が乱れてしまう。特に、ショートカットの芳香は髪が乱れやすい。こうやって髪の毛を整えてくれる順輔を見て、なにかうれしくなってしまう。
「あーっ! 順輔くん。……ここ」
「え? ……あ」
 ふたりがやっていたときに、ちょうど結合部だったあたり。そこに、濡れたようなシミが出来上がっていた。カーペット敷きの部屋なので、濡らすとどうしても跡となって残ってしまう。乾かすにも、この粘液系のシミは簡単に乾くのだろうか?
「とりあえず、ティッシュで拭いとくか……」
 ふたりがシミに対してティッシュで一生懸命こする。大して意味はないように見えるが、気休めみたいなものだろう。ごしごしと、一生懸命カーペットを拭くふたり。なにか、間抜けな光景にも見える。
「さっきよりかはマシになったと思うけど……」
「うん、……そのうち乾いちゃうと思うから、大丈夫だと思うけど」
 しばらく拭きつづけて、シミの色も薄くはなったが、それでもちょっと残っている。あとは、乾いてくれるしかないだろう。
 時間までまだしばらくあるので、ふたりの時間をもうちょっと過ごす。中学生とはいえ、ふたりで一緒にいるのが幸せなのは、どこの恋人も一緒のことだ。
「ねえ、順輔くん」
「ん?」
「今年、受験だよね……」
「そうだな……。けっこう、学校でもうるさく言われてるしなぁ……」
「ストレスとか、……やっぱり溜まる?」
「ふぅむ……。今はそうでもないけど、これから先どうなるかわからないな」
 高校受験がはじめての「受験」となる人が多いのだ。順輔もそのひとり。それなりにわからないことはあるし、やっぱり学校や親からうるさく言われて、それなりにストレスも溜まったりするだろう。
「ね、……ストレス溜まったらね」
「ん?」
「……わたしで発散しちゃっていいからね」
 小悪魔っぽい微笑みを浮かべた芳香が、ちょっと小さな声で言う。
「……」
 順輔はしばらく考えて、微妙な顔つきで言う。
「それは、ストレスを発散するんじゃなくて、性欲を発散するんじゃないのか?」
「え? 違うかな……?」
「……違うわけじゃないけど」
 そう言って、またも微妙な顔つきで考える。
「まぁ、芳香と一緒に居たら楽しいし、ストレスも勝手に抜けていくからな」
「えへへ、そう? ありがと、順輔くん」
「こっちこそ、気を使ってくれてサンキュな、芳香」
 ふたりが微笑みあって、ちゅっとキスをする。そして、もう一度ふたりで微笑みあった。
「オレさ、高校入ったらちゃんと勉強して、そんで大学行ってさ。……小学校の先生になろうかなって、思ってる」
「小学校の先生? ほんとに?」
「うん。……こないだ、湯川先生、じゃなかった荒木先生と話して、やってみたいと思ったからさ。それで、また器械体操部とかの練習を見たりしたいなって」
「そっかぁ。……うん、わたしも応援するよ。わたし、順輔くんのお嫁さんになって、ずっと応援してあげるから」
「……芳香、ありがと」
 そうして再び、ふたりが唇を重ね合わせた。
「大切にするよ! 芳香!」

 おわり


 これで、器械体操部シリーズは終了です。後藤輝鋭が小説を書き始めたころの初期作品だったひとつ目から、5年もたって3つ目が作れました。今読み返せば、ひとつめは今の作風とぜんぜん違って赤面ものです。これ、そのうち書き直しますね…。しかしながら、読みきりを3作品、それなりに楽しさのある作品になったかな、と思います。実際問題、3作目OB編は2回書き直しをしています。ひとつめは春の話の予定で、2年半前から構想していた作品でしたが、書きにくくてボツ。ふたつめは、順輔の将来を考えるみたいな感じだったのですが、なんか重くて面白くなくてボツ。結局、こういう作品になりました。登場人物も、順輔と芳香以外はチョイ役ですが。
 てことで、器械体操部シリーズを完結にしたいと思います。

  後藤輝鋭 -Kiei Gotoh-


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