・くりえいた〜
・第1話「10月 1ヶ月」



「博樹お兄ちゃん。朝だよ〜」
「ん〜っ……。わかった、すぐ起きる……」
 10月に入って秋が深まってくるとともに、だんだんと肌寒く感じてきた。タオルケットから毛布を掛けて寝るようになり、部屋も寒くなってきて目覚めるのがおっくうになる。博樹もやや寒そうに起きあがると、まだ寝ぼけ眼でリビングへと向かう。テーブルの上には、あずさが作った朝食が置かれている。
「博樹お兄ちゃん、今日は?」
「……事務所行ってくるけど、7時には帰って来れるよ」
 コーヒーをもってボケーっとしながら、博樹が答える。
「わかった。じゃあ、ご飯作って待ってるね」
「うん、よろしく」
 ふたりで朝食を済ませると、あずさが先に家を出る。
「じゃあ、いってきま〜す」
「お〜、いってらっしゃい。気を付けてなー」
 博樹もきちんと目が覚めたときは、玄関まであずさを見送る。元気よく学校へと向かったあずさの姿を見て、少しは自分も気合を入れないといけないかなと思う。
「さぁて、オレもそろそろ出かけるかな……」
 うん、と一伸びしてから身支度を整え、かばんを肩に担ぐと、博樹も家を出た。


「ただ〜いま〜」
 夕方の4時ちょっと前。あずさが学校から帰って来る。家にはもちろん、誰もいない。博樹と一緒に住む前から、親は家を留守にしがちだったので、帰ってきても誰も居ないというのはもう慣れっこになってしまった。
「さて、なにしよっかな?」
 ランドセルを自分の部屋に置き、リビングに出て来てひとり言のように言う。
「そうだ。今日の晩御飯は何にしよっかな?」
 などと言いつつ冷蔵庫を開ける姿は、ほとんど主婦のような感じである。たぶん、あずさの母親もそういう言いまわしだったのだろう。知らず知らずのうちに、そういう部分は受け継がれていくのだ。
「よし、今日はお買い物なし!」
 冷蔵庫をひととおり見ながら晩御飯の献立を考え、パタンと扉を閉める。冷蔵庫の中に入っていたもので夕食を作る辺り、すでに主婦感覚である。
「そうだ、博樹お兄ちゃんのパソコン借りて遊ぼ」
 思いついた様に、あずさが博樹の部屋へと入る。博樹は2台パソコンを持っているが、型落ちも型落ちになった古い方のマシンなら自由に使って良いと言ってある。博樹が上京して来た時に大金をはたいて買った、大手メーカー製、往年の名機である。それでも、遊ぶくらいなら不自由なく使えるようにしてあるし、ネットにも繋がっている。しばらくの間、あずさはそのパソコンで遊ぶことにした。
 博樹の部屋は、意外なほど整理されている。一番最初にあずさが博樹の部屋を尋ねた時も、そのあっさり具合に少し驚いたくらいだ。このあたりは割ときちんとする性格で、事務所のデスクもきれいにしてある。
 その代わり本が多く、本棚にはマンガ本から小説、図鑑やいろいろな写真集、雑誌のバックナンバーなどがきちんと並べられている。小説は、著名作家のものからライトノベル、アニメやゲームのノベライズものまでいろんな種類のものがあるし、一角には博樹の好きな同人誌があるなど、いろいろな本が詰められている。このあたりは、あずさがよく借りて読んでいたりもする。
 さらには、「一角」とは言えないほどの部分に、博樹曰く「資料」という名のエロ本も並んでいる。しかも、通常のエロ本やヌード写真集ばかりでなく、いわゆるロリなものもかなりの数が並んでいた。
「資料にしては、……博樹お兄ちゃん、ちょっと多いんじゃないかな……?」
 小1時間ほどでパソコンを切り上げたあずさが、その「一角とは言えない」本棚の前にぺたんと座ってつぶやく。今となっては購入できない大切な資料なのだが、確かに数が多い。規制前から売ってはならないような本も、あるのはなぜなのだろうか……。
「……ちょっと見させてもらおうかな……?」
 以前から博樹の部屋に何度となく入っていたけれど、ここにある本を見る機会がなかなかなかった。興味はあったけれど、部屋に博樹がいたり、それを見るのはいけないことのような気がして、見ることが出来なかったのだ。
「……ちょっとだけなら、……いいよね」
 自分に言い聞かせるようにそうつぶやいて、あずさはその写真集が並んでいる列の中から一冊の本を取り出す。定価2200円の、一時著名となった発行元により売り出されていた、いわゆるチャイルドヌード写真集。
「わ……。ほんとに脱いでる……」
 あずさよりも少し年上くらいの女の子が、屋外で撮影したもの。最初の方はきちんと服を着ていたが、だんだんパンツを見せたり、スカートを脱いだり、スクール水着を着たりしている。そして、ページをめくっていくと、はだかになっている写真が並んでいる。あずさは、それをまじまじと見つめていく。
「恥ずかしく……、ないのかなぁ……?」
 1ページずつ、裸の女の子をしっかりと見る。自分よりも少し背が高そうで、胸も自分より発達している。それでも、大人の女性の胸から比べればまだまだ未熟なのだが。自分よりも胸が大きいなぁ、ということを考えながら、あずさの心臓が少しずつ高鳴っていく。
「……こっちは、どんなのだろ……」
 次第に興奮してきたあずさ。頬がうっすらと染まり、その興奮が「普通の興奮」ではないことがわかる。棚に並んでいる写真集を、取り出しては次々にめくっていく。「普通じゃない興奮」が、だんだんと心臓の鼓動を大きくさせていく。
 以前、ちょうど性に興味を持ち出した頃に、父親が持って帰った男性週刊誌のヌード写真のページをこっそり見ていた頃のような、ドキドキ感。けれども、今はそれよりも興奮している気がする。おそらく、自分と同じような年頃の女の子が脱いでいるから……。
「……わたしよりも小さいのに、脱いでるんだ……」
 あずさよりもいくらか年下くらいの女の子も、同じように野外ではだかになっている。胸はもちろんぺったんこ。ちょっと恥ずかしそうな表情で、パンツを見せたり、野外で裸になっている写真を見ると、あずさになんとも言えないどきどき感を感じさせた。
「……はぁ」
 少し色の入ったため息をつきながらも、本を見ては戻し、見ては戻しを繰り返す。からだが、少し火照っているような気がする。
「……こ、これすごい……」
 思わず口に手を当てて、そうつぶやく。あずさが手に取ったのは、実際にあずさくらいの女の子が、博樹くらいの若い男の人と絡み合っている写真集。いわゆる裏本と呼ばれるもの。しかも、絶対的な流通量が限りなく少ない国内ものロリ裏本。
「……すごい。わたしくらいの女の子が、こんな事してる……」
 女の子が、男の人のモノをくわえたり、あそこをいじられたりしている写真を見て、あずさの心臓がさらにどきどきと高く打ち出す。その中の女の子の表情も決して嫌がっている風でもなく、かといって笑っている風でもなく。なんとも表情が読み取れない顔が、あずさにとってはいろいろな憶測を思い浮かばす要員になる。
「こんなことして、大丈夫なのかな……。学校じゃ、こんなこと教えてくれないよね……」
 本に写っている男女の年齢が、あずさと博樹に非常に近く見え、あずさの頭の中でそんな風に反映されて見てしまう。
「……はぁ」
 30分ほど夢中になったあと、ため息をひとつ。
「博樹お兄ちゃん……、もしかしてロリコンなのかな……?」
 あずさにとって、少しだけ期待してほしい事。
「……博樹お兄ちゃん、……私の事。どう思ってるんだろ……。わたしがどんなに大好きでも、……博樹お兄ちゃんが気付いてくれなかったら……」
 またひとつ、ふう、とため息をついて、最後に見ていたいわゆる裏本を棚に戻す。ドキドキと高鳴り続けている胸。大切な部分が、少しだけしっとりと濡れている事に、あずさは気付いていた。
「あ、いけない。こんな時間」
 ふと時計を見て、あずさが驚く。17時40分。そろそろ、夕食の仕度をしないと、博樹が帰ってきてしまう。あずさは下着の濡れた部分が少し気になりながらも、台所に立った。


「風呂上がったぞ〜」
 夕食を済ませ、博樹が濡れた髪でリビングへと入ってくる。
「あずさ、あとオレがやるから、風呂入ったら?」
「ううん、もう終わるからわたしがやっとくよ」
 夕食の皿洗いをしながら、あずさが言う。ちっちゃい体を踏み台に乗っけて、皿洗いをしている姿は見ていてほほえましい。
「終わったよ〜」
 流し台の水を止めて、エプロンを外しながらぴょんっと踏み台から降りる。
「ありがと。悪いな」
「ううん、べつにいいよ。居候してるんだもん、これくらいやってあげるよ」
 あずさが、少女らしくにこっと笑って答えた。
「お風呂入ってくるね」
 エプロンをテーブルの椅子にかけると、あずさは風呂へと向かった。


「ふぅ……」
 夜10時過ぎ。いつもより少し早く眠くなったのに、ベッドに横たわると眠気が無くなってしまった。ため息をひとつ、あずさがつく。博樹はもちろんまだ起きているだろうが、「おやすみ」を言った後に姿をあらわすのは、ちょっと気が引ける。
 ごろん……。
 寝返りを打って身体の向きを変える。まだ、眠れそうには無い。心が通じ合っていれば、「眠れないよ」と言って眠たくなるまで一緒に居てくれるかもしれない。添い寝もしてくれるかもしれない。
 けれど、いまのあずさは、ただの居候。なにより、いまのこの関係でそこまで甘えるのは、なんだか気が引けてしまう。
「……はぁ」
 またひとつ、ため息。ふと、夕方の光景が思い出される。博樹の部屋で見た、小さい女の子たちのはだかの写真。野外で裸になっている写真よりも、室内のベッドの上で裸になっている写真の方が、あずさにとってはドキッと来ていた。そして、博樹くらいの男の人にいろいろとされている写真。そういうことを思い出していくと、余計に眠れなくなってくる。
「はぁ……」
 ごろん……。
 また寝返りを打って、眠気がくるのをじっと待つ。だが、眠気よりも、記憶がよみがえってくる。そして、次第に自分の心と身体が、記憶に対して反応している事に気がつく。
 もし自分が博樹とあんなことをするようになったら、一体どんな感じになってしまうのだろう。博樹はどんな風にするのだろう。そして、自分はどんな風になってしまうのだろう。
「やだ……」
 6月頃に、クラスのちょっとませた友達から教えてもらったこと。最初はなぜだか怖かったが、それが次第に習慣化されて行く。そして、頭の中には4月に引っ越してきた、隣人の男の人が思い浮かぶようになってきた。仲良くなってからは、度々入り浸るようになっていたのに、今では一緒に暮らしている。
「あっ……」
 四肢の付け根から、少し妙な感覚が生まれる。自分の手が、パジャマのズボンとパンツをくぐり、自然と股の部分へと導かれる。
「もう……」
 自分自身に、少し呆れてしまうような気持ち。直接触れた秘部からは、すでに蜜が流れはじめていた。指先で、ほんのちょっとのつもりで芽に触れてみる。
「んっ……」
 そのほんのちょっとのつもりが、最初のひと触れの快感のせいで、本格的な行為へと入っていく。
「……ダメだよぉ、あした、学校なのに……」
 そうひとりでつぶやきながら、やめようとするのに、指先が止まらない。

「あんぅっ……」
 大きな声が出そうになるのを、必死で堪える。廊下を挟んで、隣は博樹の部屋。博樹がもしいたら、自分のこの声が聞こえてしまうかもしれない。
「はぁ、あぅっ……」
 蜜を指先につけて芽をゆっくりと擦る。何ともいえない感覚が、体中を流れていく。
「あっ、もう、だめだよぉ……」
 11歳の小さな身体には、ほんのちょっとの刺激でも大きな刺激になって伝わる。指先が自分の制御に反して動き、小さな身体がまだ小さな芽によって支配される。
「はぁっ、ひ、博樹お兄ちゃん……」
 最後に博樹の名を呼ぶと、あずさは布団の中で身を縮ませ、ほんの少しだけぶるぶるっと震えて力尽きた。しばらく荒い息をして、焦点の合わない目を暗い部屋に泳がせる。
「博樹お兄ちゃん……」
 行為の疲れからか、博樹の名をつぶやくと、あずさは眠りへと落ちた。


「ふぅ……」
 同じ時間。博樹は自分の部屋で仕事を切り上げていた。
「……はぁ」
 ため息をひとつついて、目線を壁へと向ける。その壁の向こうには、小さな廊下を挟んであずさが寝ている部屋。
「……しかしまぁ、よく1ヶ月間耐えてきたな……」
 目線をすっと本棚のあの箇所へ移してつぶやく。思っても見なかった、少女との同居生活。それよりも、引っ越してきた時から気になっていた、少女との暮らし。
「11歳の女の子に恋するなんて、……それこそゲームとか小説の世界の話なんだけど……」
 いわゆる「ロリコン」と言われる趣味を持つ博樹にとって、この生活は楽しいものでもあり、また苦しさも伴う。至極当たり前のことだが、本能を理性で抑えつける生活を続けなければならない。さっきだって、お風呂上がりのあずさを見て、かなりドキッとした。
「はぁ……」
 しばらくののち、博樹もまた眠りについた。



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